さよなら、ジョー

あれ。ジョー、何で君の机がこんなにきれいになっているんだい。あの立派なノートパソコンはどうしたんだい。
え。。。?別の部屋に移るって?友達の所?あぁ、前もそんなこと言ってたな。もしかしたら、部屋を替えるかもしれないって。達者でな、ジョー。

というわけで、ルームメイトのジョーが部屋を出ていきました。
考えたら、彼は、僕が生まれて初めて深く付き合った外国人かもしれません。それだけに、考え方の違いにかなり戸惑ったりもしました。
というか、世界から戦争や紛争がなくならないのもうなずける、とすら思いました。いや、別に戦争や紛争を肯定するわけではありませんが、違う国籍、違う民族の間に横たわる根本的な考え方の違いは、十分に争いの火種になりうるということを、身をもって実感しました。
彼はホントにいいやつです。他のアメリカ人と比べても気遣いができるし、愛想もいい。だからといってお互いのプライベートに関わるようなことはしない。そういった彼の性格を知っていたからこそ、彼と僕が心からわかりあうのは困難だ、と、あるとき感じたのです。

ある晩。僕はベッドですやすや寝ていました。
夜も更けて2時くらい。どこかへ遊びにいっていた彼が、友達を引き連れて帰ってきました。で、何をするかと思うと、パソコンを起動し、煙草を吸いながら大音量でDVDを鑑賞し始めたのです。僕が勉強をしているときでも彼はしばしば映画を観ていましたが、今回は睡眠中。当然、煙草の煙と映画の騒音で僕は目が覚めてしまいました。また寝ようと思ってもそんな環境では眠れない。日本の常識で考えると、彼の行動は常識に反する、と言えるでしょう。怒り心頭、でもなるたけ穏やかに言いました。
「眠れないから、煙草を吸うのと映画をみるのはやめてくれないか?」
「どうして?」
「(どうして?って、どうして?)…眠れないからだよ」
なんとか、止めてくれました。

で、次の日。
放課後、ちょっと彼と話をしました。二度と、僕の睡眠を妨げないように。
「ジョー、お願いだから、昨日みたいに映画を観るのはやめてくれないか。昼間はまあいいけど、夜にそんなことされると眠れないし、勉強もできない。」
「yu-net,君にはこの寮に友達はいないのかい?」
「え?いるけど。」
「じゃあ、勉強するときは友達の部屋に行けばいいじゃないか」
と言うのです。彼はおそらく、それが最良の解決策と思ったのでしょう。すごく真顔で、真剣に言ってきます。

出てけ、と。
ここは僕の部屋でもあるんだから、彼にそんなことを言う権利はない、と「僕は」思いますが。
このとき僕が感じたのは、彼我の間に流れる、暗くて深い河。絶対に渡れない、大きい河。怒りよりも、むしろ感心してしまいました。

そんなこんなで。
とりあえずは僕の言い分をわかってくれたみたいで、以降、そのようなことはありません。言えばわかる、でも言わないとわからない面もある。

でも、これが国家レベルではどうなるでしょうか?今回は幸いにも、話したらわかってくれたのですが、もっと大きな国家的な規模ではどうなるか?

世界で争いの起こるしくみが、少しわかった気がします。