白鳥の湖 第二夜

飽きもせず、今日もボリショイに足を運びます。公演は言わずもがな「白鳥の湖」。今週だけでもう3回も観に行ってるよ。

ボリショイ劇場の学生チケットを求めて、公演開始の2時間前、17時に窓口付近に並びます。それでもすでに数人の学生たちが待機していました。待つこと1時間。18時、そのころは50人くらい学生チケット目当ての人たちが集まっていました。学生チケットは安いからかなり人気のようです。それと同時に、嫌な予感が。


そのとき、学生チケットが売り出し開始。予感的中、それと同時に、窓口付近はカオス・イリュージョン。我が少しでも先にとばかり、押し合い、へしあい。一応、順番に並んでいたハズなのですが、多少の追い抜かしは暗黙の了解になっているようです。そんな中でも、後から来た男が列を無視して横からチケットを買おうとすると、その前後から「どいてください!」「ちゃんと並んでよ!」のブーイング。それでも言われた当人はニヤニヤしながら「いいじゃないか〜。」ロシアに来て思うのですが、ロシア人ってけっこう、こんな「我の張り合い」が好きですね。いや、傍から見てる分にはすごく面白いのですが、あまり気分のいいものではありませんね、社会のルールを守らない人間は。


なんとか自分は20ルーブルで買えました。でも、並んでいた全員が学生チケットを手に入れたわけではなさそうです。ちなみに、例の列無視男(れつむしお)くんはしっかり学生チケットを入手していました。


基本的に昨日と同じですが、十分楽しめました。おそらく何回行っても飽きないと思います。また、公演内容は同じでも観客は違いますし、キャストも楽団も昨日と全く同じ状態とは限らない。観客の反応がかなり違っていたのが、なかなか面白かったです。
公演終了後、例によって日本人を見つけましたが(というか日本語が聞こえてきたのですが)、今日は声をかけませんでした。


さて、この劇場の「白鳥の湖」の解釈は、アンハッピーエンド。二人は結ばれません。確かに二人はかわいそうですが、僕はこの結末の方がより深みが出るものだと思います。注:ここから先はややマニアックというか自分的メモ帳になっています。しかもバレエの解釈ではなく物語の解釈です。


その前に、物語を知らないという方はこちらへ。ウィキペディアによる「白鳥の湖」のあらすじです。会ってすぐ永遠の愛かよとか、悪魔もヒマだなとか、いろいろ突っ込み所はありますが。

  • ハッピーエンドはありえない

いずれの解釈であれ、この物語には悲劇的な点が二点あります。ひとつは、悪魔により王女オデットを含む娘たちが白鳥に変えられてしまった点。もうひとつは、王子が誤ってオデットではなく彼女によく似た悪魔の娘オディールに永遠の愛を誓ってしまった点。

後者にスポットをあてます。この行動、いろいろ解釈ができそうです。


オデットにとってはこの王子の行為によって、王子の愛は所詮、偽りに過ぎなかったという絶望を味わったことでしょう。一度は信頼した男性に、過失とはいえ裏切られてしまう。下手をしたら悪魔の呪いよりも、その絶望の闇は深かったのではないでしょうか。


そして、もし王子が悪魔を打ち倒してオデットの呪いが解け二人は結ばれました、というハッピーエンドでも、オデットは本当に安息の日々を得ることができるのか、という疑問が残ります。たとえ王子がオデットをずっと大切にしたとしても、「一度は自分を絶望させた」王子に、疑念を抱かないで暮らせることができるのでしょうか…。


この「ハッピーエンド」の続きを考えると、僕の頭にはこんな妄想が広がります。もとの人間の姿に戻り、無事に王子と結婚したオデット。何不自由ない生活で、王子は自分を大切にしてくれているし、彼の家族や周囲の人間もよくしてくれる。でも、一度経験した王子の「裏切り」を、忘れられずに王子への疑念を抱えている…。王子が自分を大切にしてくれるからこそ、王子への不信の念で苦しみ、陰で涙する生活…。そしてそれを見てあざ笑う、蘇った悪魔。


もしかしたら、王子が愛を誓う相手を間違えた時点で、この物語は「悲劇」へとしか突き進めないのではないか。ハッピーエンドたりえないのではないか。そう考えています。