二つの主義の狭間で

資本主義への転換は良いことだと思う。経済も上向きになってきていますしね。でも、社会体制が変わってから、あだ10数年。まだまだ未成熟。貧富の差も広まっていますしね。私が生まれた時だって、まだ社会主義国で「違う国」だったのですから、まだ変わっていくと思います。
それに、ロシアに民主主義を根付かせるのは難しいですね。ロシアの人々は、ピョートル大帝やエカテリーナ女帝とか、強い力での支配を自ら望んでいるからです。今、こうして私が私の意見を自由に話せるのも民主主義のお陰だけど、ロシアには合わないかもしれない。強い力での支配、それがロシア人の「血」だから…

上の引用は、ロシア人の先生の言葉です。

授業で経済の話題が出たので、ちょうどいい機会だと思ってこう質問してみました。

「ロシアが社会主義から資本主義に変わったことは、いいことだと思いますか?」
それまでの優しく、穏やかな口調とは一転、少し言葉を探るような、穏やかというよりは影のある重い口調で彼女はこう答えてくれました。
この答えは多少、意外でした。僕の知識や考えと、だいたい同じだからです。ロシア人のロシア人観は意外と冷静なようです。少し考え込むような口調は、やはり複雑な思いがあるのでしょう。先生はだいたい40過ぎくらい。社会主義の時代に生きる年月の方が長いため、狭間にいる彼女は考えこんでしまうのでしょうか。
また、彼女は外国人を相手にした教師。常に外国人と触れ、日常的に自国を外国と比較する、特殊な職業でしょう。その人が、こういうロシア人観を持っていることは、なかなか興味深いです。